バーンハナの軌跡19

【お別れの前に】 

お世話になったKパンを2ヶ月後の8月一杯で辞めることが決まった。 

今までの自分の意識や、考え方を変えてくれた仲間と離れることが寂しくて仕方がなかった。 

特に寮で世話になった3人と、そして私を信じてついてきてくれたT君には特別な思いがあった。 

新会社を作ることは叶わなかったが、代わりにお金よりもっと大切なものを沢山得ることが出来た。 

本当の幸せは損得なしに助け合うことで、溢れ出る思いやりの輪が、最も居心地の良い環境だと言うことを 

教えてもらった。そして与えてもらった。 


世話になったお礼に、寮のメンバーと近所に新しく出来た銭湯で食事と風呂を振る舞うことにした。 

その銭湯は今まで番台しかない銭湯ではなく、大きな食堂と休憩スペース、そして目新しい 

マッサージの部屋があった。 

マッサージは、ラグビーで怪我をした時にリハビリで先生に連れていってもらったし、 

気持ちが温まった記憶があった。 

これを皆に振る舞おう‼ 

値段は高かったが、皆が喜んでくれた。 

特にK君が今までにない表情で喜びを表しているのには少し驚いたが、一番驚いたのは、 

マッサージ師の方々の充実した表情だった。 

皆、満足そうな笑顔で終われたことが一番嬉しかった。 

寮に帰ってからも終始マッサージの話題で盛り上がった。 


【皆が望んだこと】 

工場で働く皆や、事務で世話になった方にも何かお礼がしたかったが、何をして良いかわからなかった。 

そこで皆が何を望んでいるのか聞いてみることにした。 

「叶うとしたら何を叶えてほしい?」 

私はまず障害を持つ仲間達に聞き回った。 

しかし、皆欲しいものは無いと口を揃えて言ったが、 

でもしたいことはあると、照れくさそうに言った。 

何をしたいのかと尋ねると、 

「皆と一緒に旅行に行きたいよう」 

と言った。 

それを聞いていた周りの皆も目を輝かせて、うなずいていた。 


【社員旅行へ】 

もうすぐ学校は夏休みに入る。 

学校が休みになればKパンも閑散期に入り、週休3日制になる。 

このタイミングで社員旅行に行けるかもしれない。 

私は直ぐに理事長に話をしに行った。 

「理事長!皆、旅行に行きたいと言ってます!社員旅行に連れていってもらうことは出来ないですか?」 

そう言うと理事長は 

「私も連れていけるものなら連れていってあげたい。でもね皆を連れて行く費用が無いんだよ」 

と寂しそうな顔で言った。 

私は 

「どれぐらいお金が有れば皆を社員旅行に連れて行くことが出来るのでしょう!!」 

と、すぐさま聞いていた。 

理事長は300万、いや近場なら200万有れば行けるかもと言った。 

その夜、T君と200万作って皆を社員旅行に連れて行く作戦を建てた。 

「おもしろい!絶対作りましょう、鵜川さん~」 

T君がノリノリで良かった。 

これが彼と一緒にする最後の大仕事だなぁ。 

胸を踊らせながら期待と希望で溢れていた。 


~続きます~