続バーンハナの軌跡⑦
『冬のハナコース』
【オープン】
オープン準備が全て終わったのが朝の5時だった。
何とか間に合った安堵感と、これで大丈夫かと言った不安でソワソワしていた。
オープン前に温泉の社長が全スタッフを集めて大きな声で挨拶の練習をしょうと言い出した。
「いらっしゃいませ」
「有り難うございます」
「またお越し下さい」
など、初めは皆声の小さい挨拶だったが、社長の叱咤激励と自ら示す大きな挨拶に、
皆がつられるように徐々に声が大きくなっていった。
外には沢山のお客さんの列ができていた。
いよいよだなぁ。
そう思っていると玄関の扉が開かれた。
【大混乱】
オープンと同時に沢山のお客さんが一気に押し掛けてきた。
フロントは大パニック。
3台の券売機は一瞬で長蛇の列となりった。
間違えてマッサージの券売機にも一気に群がったお客さんにスタッフも大パニック。
なんやかんやで、はじめの緊張とは裏腹に皆お客さんの案内でいつの間にか笑顔で大きな声で対応していた。
その後暫くしてマッサージの券売機に団体のお客さんがやって来た。
「なんや~これマッサージか」
ミーティングで決めた順番待ちのスタッフに緊張が走った。
「はい、そうです。いかがですか」
スタッフが辿々しく声をかけると、
「やっていくわぁ~」
と4人のお客さんが入ってくれた。
ドキドキしたなぁ~
皆もドキドキしただろうに。緊張で固くなったスタッフに、一生懸命やっておいでと声をかけると
緊張した面持ちでお客さんを部屋へと案内していった。
それから間もなく、マッサージは全てのコーナーが満員となった。
本当に良かった。
今までの苦労が一気に報われた気分になった。
お客さんも笑顔で帰っていく。
スタッフはさらに満足した笑顔でお客さんを見送る。
この一連の関係性が求めていたものだった。
Kパン時代に感じた満足感が溢れてきた。
【再会】
オープンして半日が経った時、あまりにも眠たくなったので目を覚まそうと
外の自販機の缶コーヒーを買いに行った。
缶コーヒーと一緒に吸う煙草は格別に旨い。
特にこんな時は尚更感じる。
煙草をふかしながら、余韻に浸っていると背中越に聞き慣れた声が聞こえてきた。
「おい、鵜川」
振り返ると山口先生が立っていた。
げぇ~
一瞬固まった。
持っていた煙草を直ぐに捨てる。
条件反射だった。昔、煙草が見つかって全員丸坊主になって、気が遠くなるほどのダッシュ地獄を
思い出した。
思わず「すみません!」と言ってしまった。
先生は
「お前がこの店をやっているのか!」
と笑顔で問いかけてきた。
笑顔で安心した。
はい、マッサージコーナーがお店です!
と言うと笑顔で頭を叩かれた。
「煙草はやめろよ~」
「でもお前に会えて良かったよ」
そう言ってお店に入って行った。
それから何度かお店に通ってくれた。
その度に緊張したが、先生を見返したいと突っ張っていたあの頃でなくて
本当に良かったなぁと思う。
皆ありがとう。
そう思うと自然と心が温かくなり、込み上げてくるものがあった。
~続く~