バーンハナの軌跡20

【作戦】 

理事長が言った200万円を作ると言うことは利益の事だった。パンの材料費は安いと言っても人件費や配送費 

用、その他経費を入れると最低でも600万円の売上が必要だった。 

100円のパンを売るとするなら6万個。 

1ヶ月で計算すると1日2000個売るのが必須となる。 


学校の売店で売れるパンでも100個売れるかどうかの現状で、予想していたよりも遥かに高い壁 に頭を悩ませた。 

仕事が終わる度に工場長のAさんを交えて3人でミーティングを幾度とした。 

結果的に皆がどんなパンを欲しがるか? 

と言うことが一番重要だと言うことで、翌日からT君と手分けして、給食のオバチャンや、 

生徒にアンケートを実施することにしようと決めた。 

【アンケート結果】 

アンケートを採ること1週間。 

ある程度の結果が出た。 

持ち寄った結果は、①~③位がほぼ横ばいだった。 

①位が確か、こしあんパン 
②位が、蒸しパン 
③位が、あんドーナツ 
④位が、チーズパン 
⑤位が、チョココルネ 

だった記憶がある。 

全てKパンが売っているパンから選んでもらうのが条件だった。 

早速、工場長の所に集計結果を持っていった。 

その結果を観て工場長は冷静に言った。 

「これか~。想定してた結果だったけど、今の材料でこれを作るのは今以上の物は無理だがや。」 

どういうこと? 

と聞くと  

「うちは支給されてる材料からでしか製品を作ることしか出来んのよ。学校給食を指定されてる工場だから防腐 

材やその他の旨味を長く持たす材料が使えないから、今以上は無理だで」 

と言った。 
こんな決まりがあったとわ。 

ますます困難な状況に追い込まれた。 

工場長は一度違うパンを今の材料で作ってみると言って、ひとまずミーティングが終わった。 

数日後、工場長に呼ばれて工場へ行った。 

調理室に行ってみると、そこには数種類のパンが置いてあった。 

今までに無かったような、あったような感じのパンだった。 

皆で試食したが、正直美味しいとはお世辞にも言えないパンばかりだった。 

工場長の表情も暗く、またまた振り出しに戻る。 

こんな試食会を10回はしただろう。もうすでに7月も終わろうとしていた。 

それまで色々な意見を持ち寄った。 

コンビニに行くと真っ先にパンコーナーに行って売れ筋を見たり、町中のパン屋の前を通っては 

何が売れてるかを観察した。 

色々試したがどれも材料の壁が越えられない。 

退職するまでの期限が近づき、焦りの色が隠せないまま、12回目の試食会を開催した。 
奇跡を信じて試食したが、またまた失敗。 

上手く行かない焦りと、苛立ちで皆が意気消沈してるとき、工場長の助手を務めていた 

Aちゃんが工場長を探しに調理室に来た。 

彼女も軽度の障害を持つ女の子だった。 

あの日旅行に行きたいとうなずいていた子だった。 

彼女は意気消沈してる我々を見て、不思議そうな顔で言った。 

「おかたずけ終わったから帰っていい?」 

何とも気楽なAちゃんだったが、 

彼女はお腹減ったからと言って、試食品を食べだした。 

彼女はよほど腹が減っていたのか、両手でパンを掴んで同時に食べだした。 

私は「そんなに腹が減ってたんかいなぁ~。ゆっくり食べな喉つまらすで」と 

言った時、Aちゃんは 

「これとこれを一緒に食べると美味しいの」と言った。 

彼女の手にはチーズパンと蒸しパンが握られていた。 

「これや~!」 

「このパン合わせたら美味し言ってる工場長!」 

「合わせて作ること出来る!」 

何か閃いたかのように目を見開いてうなずいていた。 

【新作完成】 

次の日の夕方、またも工場長から呼び出しがかかった。 

昨日のAちゃんの合わせ食べの一件から、徹夜で取り掛かった一品らしい。 

急いで調理室にいくと、満面の笑みで工場長が立っていた。 

「食べてみて」 

と言った。 

T君と食べてみると、今までに無かった味わい。 

これはいけるかも! 

T君と目を合わせて言った。 

工場長は

「新作、Aちゃんスペシャルの完成!」と叫んだ。 
パンの名前がAちゃんスペシャルだと伝わりにくいため、[チーズ蒸しパン]と名付けた。 

明日から給食のオバチャンに一斉にサンプルを配ろう! 

結局3人で徹夜でチーズ蒸しパン作りに取り掛かった! 

工場長は徹夜2日目やけど元気だった。 
~続く~